金属がもつストーリーで「自分らしさ」を紡いでいく
水野さんのライフヒストリーを紐解いたあと、丸山代表は指輪に使う金属の説明を始めました。「SORAの特徴の一つは素材の多彩さ」だと話す丸山代表。実はもともと、釣り具をつくることを目的に大学で彫金を学び、そのなかでジュエリーと出会いました。だからこそ、自身の“素材オタク”なところを活かして、素材それぞれの「意味」や「ストーリー」も込めて、個人の内面性を反映させるようなジュエリー作りに臨んでいます。
白っぽさや比重の高さから王子様やお姫様を象徴するプラチナ、公共材料として活躍しているパラジウム、東西冷戦時代に生まれ、航空宇宙産業とともに精錬技術が発達してきたチタン、携帯などの現代文明をバックグラウンドで支えているタンタルなど、丸山代表から様々な金属の説明を聞きながら、過去のオリジナルリングの作品も鑑賞していった水野さん。
その幅広さと多様さに「本当に何でもできるんですね」とつぶやくと、丸山代表は「何でもできる状態にしたら、本質的に何を残さないといけないかを考えざるをえなくなるじゃないですか。妥協する余地を与えないんです(笑)」と。
無限に近い選択肢の中から、水野さんが最初に決めたのはゴールドを使うこと。
「ゴールドが特別な存在であることはなんとなくこれまでも感じていましたが、丸山社長から、人間と金属の最初の出会いはゴールドだと聞いたのが、すごくおもしろかったんです。ほとんどの金属は石の中に入っているから見つけるのが難しかったけど、金だけは砂金のように目に見える形で存在していた。そして金から人間と金属の関わりが始まったと」
人類と金属の歴史の象徴ともいえる金に、水野さんはクラシック音楽の重なりを感じたようです。
「西洋音楽も、ピタゴラスが音階を生み出したところから始まりましたし、クラシック音楽は古来からあるものなので、自分の活動に金がぴったりなんじゃないかと感じました」
そのうえで水野さんから、「古いものと新しいものの融合が、自分らしさの一つ大きなコンセプト。古い音楽であるクラシック音楽に、現在の技術を重ね合わせて、新しい表現をつくろうとしています。だから、古来からある金に、何か新素材を混ぜ合わせられたらいいかなと思いました」という提案が。
それを受けて、丸山社長は「禁断の実があるんです」と、新素材のレアメタルであるタンタルとゴールドを組み合わせた過去作品の指輪を水野さんに差し出しました。
「通常、ゴールドをはじめとした貴金属とレアメタルは、くっつきにくいため、経年によって変形してしまうリスクが高いんです。だから禁じ手なんですけど。でも技術的に作ることは可能ですし、今のお話の内容には、これがぴったりなんじゃないかと」と丸山代表。差し出された指輪を見た水野さんも、「かっこいい!マットな質感がすごくいいです!」とピンと来た様子。素材はゴールドとタンタルの2種類に決定しました。
続いて決めなければならないのは形態・デザインです。金属を選ぶ段階で軸となるコンセプトが決まったためか、水野さんからさらりと提案が。
「中世ヨーロッパのゴシック調のような細かい装飾と、シンプルでモダンなデザインとが両立している感じはどうでしょう?クラシック音楽というと『あれね』ってみんながイメージするものがあると思うんですけど、実際にはものすごい振れ幅があるものだと僕は思っているんです。一曲の中でも表情がどんどん変わりますし。そういう多面性を指輪に取り入れられたらうれしいなと」
水野さんのこの言葉で、丸山代表のなかにすぐイメージが浮かんだようで、「こんな感じとか?これぐらいとか?」とイメージを描いていくと、水野さんが「あ〜!いいですね!これかっこいいですね!」と呼応。
「あとはここをこうして」「なるほど、そのほうがどうなるんだろうっていうワクワク感があります」「見えない面白さがありますよね。このわからなさに賭けてみません?」「これはとってもワクワクします!」と、どんどんお二人の気持ちは高まっていき、ワクワク感とともにカウンセリングは終了。
さぁ「全貌は見えない」状態から、どんな指輪ができあがるのでしょうか?
スチール撮影:伊藤圭
Interview & Writing
アーヤ 藍 ai ayah
PROFILE
2014年から約3年間、ユナイテッドピープル(株)で、様々な社会問題をテーマにした映画の配給・宣伝を行い、SORAとも、アメリカの同性婚裁判を追ったドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ』を配給していたときに出会った。2018年春からはフリーになり、映画イベントの企画運営や、環境問題に関する学校向けの教材づくり、医療系記事のライティングなどを行っている。