4月から6月の戸隠では、山々の雪解けにより普段穏やかな小川のせせらぎが激流に変わります。いたるところに水が溢れて、新緑が芽吹き、やがて花が咲き始めます。まずヤマザクラやニリンソウ、水芭蕉が、水を吸いあげ輝く太陽の日照を頼りに花を咲かせます。
日なたと日陰、残雪があったりと、同じ山でも所々で大きく温度差があるので一斉に咲くというよりも、それぞれの場所でそれぞれのタイミングで咲き始めるのです。森へ行くたびに毎日異なる光景で楽しませてくれます。
戸隠神社の奥社入り口から随神門までの参道では、5月中頃に参道沿いの水路脇にニリンソウが群生します。小さく2輪咲く白い花は、受粉のタイミングを長くする為、少し開花期間をずらします。場所にもよりますが、開花から2週間ほどは見頃の期間が続きます。
熱を通せば食べられる「山菜」としての面がある一方で、若葉の形が毒植物であるトリカブトと似ていることから、見分けが重要な草花となります。若干の毒を含んでいますが、熱を通すことで解毒されるため、山菜として古くから楽しまれてきました。
地元の商店のニリンソウおやきが美味しくて、滞在期間中に5個は食べました。
1本の茎から更に2本の長い茎が伸び、最初に1輪が、その花に寄り添うように2輪目が遅れて咲きます。似た種類に、1本の茎に1つの花を咲かせるイチリンソウ、1本の茎に3つの花を咲かせるサンリンソウもあります。イチリンソウはニリンソウよりも花が大きく、サンリンソウはニリンソウよりも花が小さくなっています。
都内でも板橋区の一部に生息していますが、東京都23区ではレッドリスト「準絶滅危惧」指定となり、千葉県では「要保護」、和歌山県・島根県・高知県・佐賀県では「絶滅危惧種」となってます。
【花言葉】
「協力」「友情」「ずっと離れない」
戸隠森林植物園でみることのできるサンカヨウは、数日~1週間ほどで花が散ってしまうとても見頃が短く、お目にかかることが難しい希少な花。最大の特徴は、雨に濡れると、それまで白かった花びらが透明になることです。
透明になる原理は、すりガラスに水をかけると透明になるのと同じように、乾いた状態の花びらは光を散乱させて白くなり、水を含むと光が透過しやすくなるから。
かといって、ちょっと濡らせば透明になるわけではなく、かなり長い時間雨が降り、徐々に濡れていき、ゆっくりと水が浸み込んでいかないと透明には見えないようです。開花期間も短いので、透明になった状態を見るのは超貴重です。
<その他の特徴>
・メギ科サンカヨウ属の多年草
・森の妖精とも呼ばれることも
・別名スケルトンフラワー
・高地のやや湿った場所、灌木の間に生息
【花言葉】
親愛の情、幸せ、清楚な人
清流や、湿地にニョキっとたたずむ水芭蕉の姿は、誰もが春を感じることでしょう。戸隠では、雪解け後の湿地のいたるところで見ることが出来ます。隣には黄色いヒメリュウキンカも咲き、賑やかな春の光景に心躍ります。
白いのは花ではなく、本当の花は中心部の黄色いところについています。開花期間は1~2週間ですが、霜に非常に弱く、霜に当たると苞(つと)の先端が茶色くなってしまうので、純白の美しい水芭蕉をみるには4月終わり頃がチャンスです。
<その他の特徴>
・石川県、栃木県のレッドデータブックでは準絶滅危惧、兵庫県では絶滅危惧種
・サトイモ科ミズバショウ属寒地性の多年生植物
・山地の湿原に生え、分布は北方領土を含む北海道から本州の中部地方
・花に触れるとかぶれる
・有毒で食べると下痢をし、ひどいと呼吸困難で命に関わることもある
・種子は栄養豊富でクマの大好物
【花言葉】
美しい思い出
これまで紹介した山野草の生育には、豊かな水が溢れる湿地が欠かせません。清流が流れ込む湿地は、水と大地が出会う場所であり生命の宝庫です。湿地の機能としては、高山であれば雪解け水を貯えて土砂崩れを防いだり、また海に近ければ高波を抑える防波堤の役割を担ったりと、知らず知らずのうちに生き物の暮らしを守っています。
現在、世界的に湿地が減少しており、その原因は人間が開発のために埋めてしまったことによります。1900年以降、土地改変により世界の64%以上の湿地が失われたといいます。
さらには、地球温暖化の影響でいうと、森の生態系が変わり、新たに生息地を広げたシカが、湿地でノミを落すためのドロ浴びをする「ヌタ場」として掘り返し、破壊してしまうことがあります。湿地の復元はとても時間がかかるため希少植物の生育場所が減ってしまうのです。
もっと長いスケールで見た湿地の重要性もあります。何万年もかけて湿地に蓄積した植物は泥炭化して、この泥炭層がCO2ガスを吸着するので、温室効果ガスによる地球温暖化を抑制していたのです。
森では自然環境と植物・生き物が混然一体となり、共生していることが良く分かりますね。後編では、日本の森と気候変動について考えてみましょう。
SORA営業企画部マーケティングチーム所属
日本自然保護協会(NACS-J)自然観察指導員
坂本良太
宇宙撮影でもおなじみマーケの坂本。普段は企画業務をこなしつつイベント運営、機材の試作までなんでもやる課のアラフォーパパ。最近気になることは宇宙創生とベルトサンダー。