対話のケミストリーから生まれる唯一無二のデザイン
いよいよ具体的なデザインの相談です。
「できるだけシンプルに」というドリアンさんの希望を受けて、丸山代表はまず、デザインではなく素材の提案を始めました。「2つの金属を組み合わせてはどうか」と。
1つ目はプラチナ。熱に強く錆びにくいため、変質や変色の心配がない安定した金属です。長さの単位「メートル」の国際基準をあらわす原器(標準器)の素材にも選ばれています。
もう1つはタンタル。元素界では最後から3番目に分離が可能になったというぐらい、長年科学者たちを手こずらせた金属です。その歴史的背景によって、「じらす、やきもきさせる」といった意味の英語「tantalize(タンタライズ)」から名付けられました。
世の中の価値基準や規範を象徴するようなプラチナと、周囲をじらす、いたずらっ子のようなタンタル。対照的な2つの金属の組み合わせはまさに、「世間が押し付けてくる“普通”や“らしさ”を壊していくドラァグクイーンを象徴しますね」とドリアンさんもアイディアを気に入った様子。
見た目に分かりやすいデザインだけでなく、素材から“ストーリー”をこめて作っていくのも、SORAならではかもしれません。
2種類の金属を組み合わせるカットのラインは、ドリアンさんの希望で直線にすることに。
「曲線はある意味、“誰か”のデザインで、有限な感じがするんです。逆に直線は、人のデザインが介在しないところに、ある種の神の目線というか、人智が介在しない深淵な無限を感じます」
SORAのリングはどちらかというと曲線を活かしたデザインが多いですが、もちろんお一人お一人の好みや価値観によって、無限の選択肢のなかからデザインを編み出していきます。
ドリアンさんはドラァグクイーンの衣装やウィッグをデザイナーさんにお願いするとき、細かく注文するわけでも、丸々委ねてしまうのでもなく、自分と相手が持ち寄るものが合わさって生まれる“ケミストリー(化学反応)”を楽しんでいるといいます。
今回の指輪づくりにおいても、ドリアンさんのその姿勢が垣間見えますが、オリジナルリングの魅力はまさに、お客様とクリエイターとのケミストリーによって唯一無二のものが生み出される点だと思います。
ここまでの対話で、「シンプルにつるんとした指輪になるかな」とドリアンさんはイメージしていたそうですが、そこへ新たな“ケミストリー”の提案をした丸山代表。
「ワンポイントで、どこかくぼみを作ってはどうですか?」
指輪には宝石を使うことも多いですが、敢えて石を使うのではなく、くぼませるというアイディアです。
「きれいな形じゃないのがいいですね。ドリアンもマサキも、それぞれ何かしら欠けていて、でも欠けているからこそ、もっと頑張れるみたいなところもあるんですよね」とドリアンさんも賛成。
こうして、2種類の金属それぞれの側にくぼみを施すことになりました。
これでデザインは決定。最後に「内側に刻印を入れたり、マークを入れたりしますか?」と丸山代表が尋ねると、ドリアンさんは「じゃあ、私のモットー、THE SHOW MUST GO ONで!」と即答。
「どんなときでもショーは続けなければいけない」という意味の諺ですが、ドリアンさんはこの「ショー」をいわゆる表舞台だけでなく「誰かと会ったり関わったりする時間のすべて」と捉えているといいます。いわば、人生そのものがショー。そして、誰もが自分という人生のショーの主人公なんだという想いも、この言葉に対して抱いているそうです。
さぁ、これですべてのデザインが決まりました。果たしてドリアンさんの人生にリンクする指輪に仕上がるのでしょうか?
スチール撮影:伊藤圭
Interview & Writing
アーヤ 藍 ai ayah
PROFILE
2014年から約3年間、ユナイテッドピープル(株)で、様々な社会問題をテーマにした映画の配給・宣伝を行い、SORAとも、アメリカの同性婚裁判を追ったドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ』を配給していたときに出会った。2018年春からはフリーになり、映画イベントの企画運営や、環境問題に関する学校向けの教材づくり、医療系記事のライティングなどを行っている。