はじめに
SORAでは創業以来、完成した新作の指輪をスタッフが自ら自然の中で撮影し、プロモーション写真やムービーにしています。今回は、奥多摩で【秋】をテーマに大自然の情景とオリジナルデザインの結婚指輪を撮影し、ムービーカタログに収録。
「JOURNEY OF RING Autumn 2022」は、SORA表参道本店のある東京表参道からも1時間半でアクセスできる多摩地区の北西部、奥多摩にて赤や黄に色づく紅葉を追いました。そして地球が太陽を一周することであらわれる【四季】の循環という大きな輪っかと、小さな輪っか（指輪）に想いを馳せ、自然環境についても考えていくプロジェクトです。
奥多摩の成り立ちとその歴史
切り立った山々が多く、谷底を流れる川と両側の山との高低差がダイナミックな眺望を楽しませてくれる多摩川の渓谷。こうした急峻な地形は、地質の成り立ちに特徴があります。
このエリアの地層は中生代ジュラ紀に海底で堆積したチャート、砂岩、石灰岩が海洋プレートにのって移動し、大陸と衝突しながらはぎとられた地質体「付加体」によって形成されています。この付加体は「秩父帯」と言われ、1500キロに渡って帯状に伸び、日本列島を形成しています。
300万年前より地殻変動で日本列島が形成されながら、その硬い岩石が隆起し、植物は岩肌に絡みつくように根を伸ばすことで、切り立った森林の景色となりました。
現在でも石灰石が採掘されており、日本ではまれな国内自給率100％の天然資源としてセメントなどに利用されています。山ひとつが巨大な石灰岩の稲村岩は、石灰石採掘のために崩される話もあったようですが、現在は計画がなくなって日原鍾乳洞へ向かう日原街道沿いの民家の間から垣間見ることが出来ます。
東京都心から1時間半で行ける場所とは思えないほどに自然豊かな奥多摩には、清らかな水が流れ、豊かな森が広がり、樹齢数百年という巨樹が点在しています。2022年の紅葉のピークは11月2~3週目。鮮やかに色づく紅葉と、その豊かな森を育む環境について、近年の気候変動や地球温暖化も含めてお伝えしていきたいと思います。
奥多摩の鮮やかな照紅葉(てりもみじ)
紅葉と黄葉が深まる秋の奥多摩
秋に葉が色づくコウヨウは「紅葉」「黄葉」と書き、葉が色づく木の代表格はモミジです。緑、黄、赤へと秋の深まりと共に色づく様は秋の風物詩で、しんみりと冬への移ろいを実感させてくれます。
モミジ以外に黄そして赤へ色づく樹木は、ヤマウルシ、ニシキギ、ソメイヨシノ、ハナミズキ、トウダンツツジなどで、イチョウなどは黄色くなったら葉を落とします。
2022年の奥多摩は、昨年一昨年と比べるととても鮮やかに色づいた紅葉でした。モミジの赤が深く濃く、さらに川辺のケヤキが黄色く染まることで、グラデーションのような多彩な紅葉となりました。当初、夏の猛暑で強烈な日差しによって葉が焼けてちじれて乾燥してしまった木々も多く、紅葉の色づきに心配もあったのですが例年にない深い色合いの紅葉となったのです。
紅葉の仕組みとその理由は？
紅葉して落葉する理由は、日照時間が短くなる冬季に光合成によって得られるエネルギーが少なるので、葉を落として最小限の活動で冬を越そうとする冬眠に近い活動に入るためです。葉は光合成をする葉緑体が必要なくなったので、葉緑体を分解する作用が起こり、この時にクロロフィルという緑色の色素が葉緑体から出てくるのですが、青い光に反応して自身の細胞を破壊する働きを起こしてしまいます。この活動を抑制させるためにアントシアニンという赤い色素を生成することで青い光や紫外線から防御し有害物質が生成されることを抑えていると言います。
因みに黄色い色素は、既に葉に内在していたカロテノイドで、緑のクロロフィルが減ることで緑は消え、そもそもあった黄色に変化をします。こうして緑から黄へ、そして日差しをたくさん受ける上部や日なたの葉からアントシアニンが生成され赤く色付いてグラデーションになります。
温暖化で紅葉が見れなくなる？
世界的な気候変動
この100年～150年という短い期間で、産業革命以前と比べると二酸化炭素濃度が40％上昇し、温室効果によって100年前と比べると平均気温が1.1℃上昇しています。とても短い期間にこれだけ温度上昇した原因は、主に人間の石油石炭利用により排出される温室効果ガスと言われています。
世界規模で環境の変化が著しく、地球は大きな気候変動期に入ったと言われています。日本でも梅雨から初夏の局所的な豪雨や台風の進路の変化や、猛暑日が増えたり、また冬は暖冬で雪が降らなかったり、一方降ったら一気にドカ雪になったりと、これまでになかった気象現象が増えてきたことは肌で感じられるのではないでしょうか。
このまま来年もこれまで通りの四季の移ろいが見れるのかとても心配になります。
元来地球には大きなスケールで氷期と間氷期のサイクルがあり、2.3万年周期の歳差運動と、4.1万年周期の地軸傾きの変化､10万年周期の離心率の変化の3つの働きによって､地球が受ける日射量が周期的に変化することで起こる寒暖のサイクルがありますが、短期的な温暖化は自然環境にどんな影響をおよぼすのでしょうか。
暖冬による影響では、湖の酸素濃度が下がることが懸念されており、日本の霞ケ浦、琵琶湖で深層の酸素濃度の低下が確認されたそうです。
奥多摩湖の水質管理と水道水源林(すいどうすいげんりん)の保全活動
奥多摩のシンボル「奥多摩湖」
奥多摩の象徴となる奥多摩湖（小河内貯水池）は、1957年に東京都水道局が築造したダムによって多摩川をせきとめて出現した人造湖です。その建設期間はなんと19年に及びました。以降、現在まで66年の長きにわたり都民の水がめとして人々の暮らしを守り続けてきました。
奥多摩を語る上で欠かせない奥多摩湖について、東京都水道局水源管理事務所のご担当者様に、ダムのお話だけでなく水の源となる森林の保全の重要性と、その歴史について貴重なお話を伺うことが出来ました。
奥多摩湖は、水道専用として使用しているため、定期的に貯水池内の水質検査や放流水の水質監査を行っているとのことです。現在、気候変動による明確な影響は確認されていないようですが、今後もダム完成後から実施してきた水質調査を継続していくとのことです。
また、ダムには寿命があるというお話も印象的で、ダムの湖底に砂が堆積していっぱいになると貯水機能が低下し、それがダムの寿命という事なのですが、この小河内ダムはその砂の堆積状況、堆砂（たいさ）率が建造から60年以上を経ても数％未満に抑制されており、十分なダム機能を維持しているとのことでした。
他の地域によっては堆砂率が数十％という所もあるようなのですが、奥多摩湖の周辺をはじめとする多摩川上流域の森林を保全する活動の効果もあり、清らかな水を生む森が育まれて、湖への土砂の流れ込みが防げているということだそうです。
初めて知ったことですが、ダムを作る以前から奥多摩湖の上流にある水源地では森林の保全、具体的には植林が行われていたという歴史にびっくりしました。今から遡ること120年ほど前、西暦1901年から植林などをはじめとする森林管理が始まり、現在まで水を育む水道水源林の維持管理が続けられているのです。当時の多摩川上流域では生活のためなどに木々が乱伐されてしまい、丸はだかになった山だらけだったそうです。（※東京都水道局提供写真参照）
こうした「はだか山」は降った雨を地中に蓄えられなくなるので洪水が頻発し、逆に日照りが続くと川が干上がってしまったそうです。こうして、まずは木を植えることから水源を管理することが始まり、今の奥多摩をはじめとする水道水源林が形成されました。森と私たちの生活は「水」によって密接に直結しているのです。
未来に残したい奥多摩の風景
気候変動と声高に言われることも、本来自然とは常に変化するものと捉えた方がよいのかもしれません。しかしながら、私たちが日々変わらずに安全に暮らせることにも思いを馳せる必要があります。
そこには、生活に欠かすことのできない水を豊かに貯える高度な技術、そしてその水の源となる森林の保全までを長きにわたり行ってきた東京都水道局による地道な活動があったからだということが分かりました。
あるがままの自然に触れて、美しいと感じることは当然誰でもありますが、その背景を良く知ることがとても重要だと感じました。奥多摩の美しい森林は、東京都水道局や地域の方々により長らく行われてきた保全活動の賜物です。今、その恩恵を享受する私たちは、様々な動植物、大地、自然環境、気象現象、そして多くの人々によって支えられ、繋がりを持って生きているのです。
そして自分は何ができるのだろうか？
その繋がりの中で、身勝手なエネルギーの浪費や、無駄な消費など、全ての繋がりを考えた時に思いとどまるべき行動が存在するかもしれません。まずは振り返って考えてみることから始めていきましょう。
《ライター紹介》
SORA営業企画部マーケティングチーム所属
日本自然保護協会（NACS-J）自然観察指導員
坂本良太
宇宙撮影でもおなじみマーケの坂本。普段は企画業務をこなしつつイベント運営、機材の試作までなんでもやる課のアラフォーパパ。最近気になることは宇宙創生とベルトサンダー。