地球温暖化と森の関係
地球温暖化の要因として、温室効果ガスの元となる二酸化炭素排出量の増加があります。アメリカやオーストラリアの山火事や、熱帯雨林を焼き払って開墾する時の煙もその要因のひとつです。
また森林伐採も大きく影響していて、資源や燃料とするために木々を伐採したあと、植林をしないので森が減り、大気中の二酸化炭素を森が吸収する量が減っています。
日本の森の状況
現在の日本の森は国土の67%で約2500万ヘクタールあり、戸隠山のある長野県は全国第3位の107万ヘクタールの森林面積を保有します。日本全体での森の面積は1960年から50年間ほぼ変わっていません。その内訳をみると自然林は減少しているのですが植林による人工林は増えています。
面積は変わらないのですが、森に生育する樹木の数は3倍にも増加しています。嬉しい事のようですが、その実、生長を終えた大木は二酸化炭素を吸収しないので、大木、老木が伐採されずに残るのは問題です。本来なら間伐し、二酸化炭素の吸収が著しい若木を植えていくことが必要で、森は手入れされない状態になっているのです。
そうした背景には、1965年頃から安い輸入木材が台頭したことで、国産木材の需要が無くなり、伐採されなくなってしまった状況がありました。植林しただけにとどめず、生長を終えた木を伐採し資源活用していく管理が日本の森には必要なのです。
豊かな自然の森を歩くと心が洗われ、癒されますよね。その瞬間の森の美しさだけでなく、どんな樹種があるのか?なぜそこにあるのか?いつまでそこにあるのだろうか?と、森のこれまでの歴史と、これからの未来を考えながら気候変動について考えてみましょう。
森にみる気候変動の影響「ナラ枯れ」
日本の森林に多い樹種のコナラやミズナラが赤茶色に変色して立ち枯れてしまう現象が1990年代以降、日本海側で拡大しました。
現在では東京でも確認されており、公園内や幹線道路沿いの木の場合、突然に倒木する危険があるため伐採しなくてはならず、各地で社会問題になっています。長野県では令和2年に県北の白馬村でナラ枯れが起こり、翌年9月にも被害が確認されました。2021年は42都府県で発生し、その被害量は19万2000立方メートルに及んでいます。
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが病原菌を媒介し、木の内部に潜入します。その後、菌に感染し死滅した木の細胞は水を吸収できずに、夏なのに葉を赤茶色く枯らし、木まるごと一本が立ち枯れてしまいます。
【ナラ枯れの特徴】
・8月以降に、葉が紅葉しているような木。
・木の根元や幹からフラス(木屑とカシナガの排泄物が混ざったもの)が出ている。
・幹に直径 2mm ほどの小さな穴がある。
ナラ枯れが拡大する要因として、温暖化によりそれまで生息域を西日本の一部としていたカシノナガキクイムシが、暖かくなった北に拡大したという説と、そうではなくカシノナガキクイムシの遺伝子解析から生息域は変わっておらず、もともとその土地で活動が活発になる条件が増えたのではないかという研究が行われています。
近年の気候変動により春の冷害や、夏の酷暑により樹木が弱っているところに感染してしまうと、ナラ枯れが起こりやすいのではないかとも指摘されています。
現在の日本の森には、手入れが行き届かずにひしめき合っている大木が多く存在します。その大きな木を好んでカシノナガキクイムシは潜入するので、人間がこの50年間に植林したけれど手入れをしてこなかったために、ナラ枯れを大量に発生させているとも言えるのです。
森にみる気候変動の影響「シカの増加」
日本の森にはニホンジカの急激な増加の問題があります。その個体数は北海道を除く地域に189万頭と推定され、1978年度から2018年度のまでの40年間で生息分布が約2.7倍になりました。
シカが餌とする下層の植物がなくなった山では土壌が流出しやすくなり、湿地はヌタ場になってしまうことで希少な山野草の生息地がなくなってしまいます。また食料が減ると樹木の皮もはいで食べるので、皮が剥がれた樹木は朽ちて、風雨で倒木しやすくなる危険も生じています。
シカが増加する要因はいくつかありますが、地球温暖化の影響では、冬季に積雪しなくなった地域が、シカの生息地域になり個体数の増加を助長しています。他には狩猟駆除している人間の高齢化によって駆除数を減らしていることや、本来の天敵であったオオカミが1905年に絶滅してしまったことがあります。オオカミが絶滅したのは人間が害獣として駆除してきた歴史があります。人間の活動が大きく影響していたのです。
未来に繋ぐもの
長野県戸隠の春は、心癒される美しい瞬間がたくさんありました。一方、その美しい自然はいつまで見ることができるのだろうかと心配にもなりました。現在の日本の森は健全に手入れできておらず、多くの問題を抱えていたのです。
地球温暖化の要因となる二酸化炭素排出量の増加は、日々の暮らしと密接に関わっていますが、日々の生活を送りながらダメージを受けている自然の中の変化に気付くことはなかなか難しくもあります。
美しい自然の光景を未来に残せるよう自分たちが出来ることを考え、行動することが必要です。今の自分のライフスタイルを振り返りつつ、地球が太陽の周りを巡る大きなサイクルの中で私たちは存在していることに感謝しながら、自然と共に生きていきましょう。
森の中で見たちょっとした変化が、美しい自然を未来に残すための重要なサインなのかもしれません。そうした自然の機微を、これからも紹介していきたいと思います。
《ライター紹介》
SORA営業企画部マーケティングチーム所属
日本自然保護協会(NACS-J)自然観察指導員
坂本良太
宇宙撮影でもおなじみマーケの坂本。普段は企画業務をこなしつつイベント運営、機材の試作までなんでもやる課のアラフォーパパ。最近気になることは宇宙創生とベルトサンダー。