静寂の中に響く夏の兆し

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ほととぎす 鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる

hototogisu nakitsuru kata wo nagamureba tada ariake no tsuki zo nokoreru

 

the long-awaited cuckoo’s cry—
as I turn to see
where it sang,
all I find is
the pale morning moon

 


Translation of Hyakunin Isshu by
Emiko Miyashita and Michael Dylan Welch

 

 

<現代語訳>
ホトトギスが鳴いた方を眺めると、ホトトギスの姿はすでになく、ただ明け方の月が淡く空に残っているばかりだった。

 

後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)1139年-1192年
平安時代末期の公卿・歌人であり、本名は藤原実定(ふじわらのさねさだ)です。後徳大寺左大臣の和歌は、情景の美しさと静かな感動を繊細に表現したものが多く、特に百人一首に選ばれた和歌がよく知られています。

 

この和歌は、待ち望んでいた夏の訪れを告げる鳥、ホトトギスの姿が見えず、明け方の月だけが残っていた、という感嘆を詠んでいます。


「忍音(しのびね)」は、この後徳大寺左大臣の和歌を、四季の「夏」、花鳥風月の「鳥」として選びデザインしました。ホトトギスの姿を潜ませることで「初夏の訪れ」への期待を胸に、その姿を探し求める心の動きを表現しました。

「忍音」のデザインについて

 

指輪の外側には、夏へ向かい生い茂る木々を刻み、その葉が月明かりに照らされている情景を描いています。ホトトギスは、茂る葉の中にそっと隠れるように描き、和歌に込められた鳴き声の響きが残る余韻を表現しました。

 

内側には、有明の月だけが残っていたという情景を、金箔で施した月で表現。指輪の表と裏が響き合い、ホトトギスの鳴き声を聴き、見上げたら有明の月だけが残っていたという和歌に歌われている時の流れを意識しています。

 

ホトトギスは、古来より夏の訪れを告げる鳥として知られ、その初音を聴くことは平安貴族にとって特別な楽しみでした。夜明けを迎え、ついにその声を聴いた時の感動と、しかし姿は見えず、ただ月だけが残るという余韻。「忍音」は、歌の中の「見えなかったホトトギス」の存在を探すような感覚を楽しめます。

制作のこだわりと見どころ

 

「忍音」の制作では、和歌に詠まれた「見えないホトトギス」の存在をどう表現するかが大きな課題となりました。試行錯誤の末、ホトトギスは葉が生い茂る木々の中にひっそりと隠すデザインに。始めは大きく描かれていたものの、デザイナーとクリエイターが打ち合わせを重ねる度に小さくなっていき、より和歌の余韻を感じさせるために、目を凝らさなければ見えないほどになりました。作品をお手に取って、ぜひホトトギスを探してみてください。

 

細部の表現には、木や葉、鳥の彫刻のためにオリジナルの鏨を何十本も制作し、立体感を持たせる彫り加工が施されています。レーザーで彫刻した有明の月は、純金箔を重ねました。金箔ならではの柔らかな光沢が、和歌の余韻をより一層引き立てています。

「忍音」の詳細

主要素材:Ta(タンタル)
装飾:YG(イエローゴールド)、純金箔
技法:薄肉彫り、平象嵌、金箔貼り、NC彫刻、レーザー彫刻
サイズ:22号  幅10mm 
価格:¥898,700(税込)

 

※本作品は1点限りとなります。サイズの調整やアレンジ加工などのご注文は、出来かねますのでご了承ください。
 

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