毎日身につける結婚指輪のこと、もう少し詳しく知りたい!
SORAでは既成品とは違う、ふたりのためだけのオリジナルの結婚指輪をつくるためにさまざまな金属を指輪の材料としています。その中には「レアメタル」と呼ばれるものがあります。
レアメタルは「レア」というだけに、日常ではあまり触れることのない金属だと思います。でも、指輪として毎日身につけるなら、もう少し詳しく材料のことを知っておきたいですよね。というわけでこれから一つずつ歴史や物質としての特性について紹介していきたいと思います。
☆レアメタルについての記事はこちらから
→【レアメタルって何?】結婚指輪の金属をもっと知りたい!
ダークな黒い色味が人気のタンタル
第1回目は、黒い指輪で人気のタンタルです。
全金属の中で最も色が黒いタンタルは、比重が16.6とゴールドの比重19.3に次ぐ重みがあり、手にするとずっしりと存在感があります。同じレアメタルでも軽量なチタンやジルコニウムとは対照的な、その黒色と重みが人気の理由なのでしょう。
そんなタンタルは一体どんな金属なのでしょうか。調べていくと、私たちが知っておかなければいけない厳しい現実も見えてきました。
様々な用途に用いられるタンタル
タンタルが使用されるようになったのは20世紀の初頭、最初は電球のフィラメントとして使われていました。
タンタルは非常に堅いけれど延性が高いので加工がしやすく、熱や電気の伝導率が高いのでフィラメントの材料に適していたのです。
この特徴を生かしてそのあと開発されたのがタンタルコンデンサです。コンデンサとは電気を蓄えたり放出したりする電子部品で電子回路には欠かせない部品の一つです。
コンデンサはアルミニウムやセラミックからも作られますが、タンタルを使うと小型で容量の大きなコンデンサが作れることから、電子機器の小型化とともにタンタルが欠かせない材料となっていったのです。
現在では、みなさんお持ちのスマートフォンやタブレットに広く用いられています。
また、タンタルは生体に対して不活性で刺激が少なく、さらに非鉄・非磁性金属なので体に埋め込んでもMRIの検査を受けられるなど、外科用医療用具や人体埋め込み材にも広く用いられています。例えば骨折した時に埋め込む器具や、人工股関節などです。タンタルは最新の科学技術を活かすために欠かせない材料だと言えます。
これは、タンタルが金属アレルギーをほとんど起こさない素材だということも意味します。素肌に身につける指輪などのアクセサリーにも適した材料として注目されるようになったのです。
他の金属と比べて黒っぽい色をしているのもタンタルが重宝される理由の一つですが、タンタルが黒いのは金属自体の色、全金属で一番という反射率の低さによるものなのです。
以下の記事「金とプラチナって何が違うの?」で、かなりマニアックに金属の色の違いについて説明しましたが、タンタルは可視光線の全波長に置いて反射率が低くそれで黒っぽく見えるのです。また、青の波長でさらに下がるのでよく見ると少し青っぽくも見えます。
☆金属に色に違いについての記事はこちらから
鉱石コルタン
そのタンタルはスズの精錬に際して出てくる鉱滓(スラグ)またはコルタンと呼ばれる鉱石から得られます。鉱石から取り出す場合、タンタルはよく似た性質を持つニオブという金属と同じ鉱脈に含まれていて、両方が含まれる鉱石がタンタルの材料となります。
タンタルを多く含む石をタンタル石、ニオブを多く含む石をコルンブ石といい、その2つをあわせてコルタンと通称します。このコルタンを砕いてから酸を使ってタンタルとニオブを取り出し、さらに化学的処理を行って金属タンタルが取り出されます。
タンタルの採掘国と年間鉱山生産量
タンタル石の産出は21世紀初頭まではオーストラリアが1位でブラジルが2位という状況が続いていましたが、2005年ころからモザンビークやルワンダ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)といったアフリカ諸国が産出量を伸ばしていきました。タンタルは埋蔵量の約6割がコンゴ周辺にあるといわれており、現在ではコンゴとルワンダで生産量の6割以上を占めています。
ただ、コンゴ民主共和国は内戦や周辺国との紛争が絶えない国で、タンタルも武装勢力の資金源となり、さらにはタンタルの権益を巡って紛争が起きるようになります。そしてそのような事態は今も続いているのです。
つまり、タンタルは多くの人の犠牲の上に生産されている金属だということです。このような鉱物のことを「紛争鉱物」といいますが、そもそも紛争鉱物とはどのようなものを指すのでしょうか。
鉱物が紛争を生む
ただ、紛争鉱物として最初に注目されたのはダイヤモンドでした。有名なのは1990年代の「シエラレオネ内戦」で、反政府勢力のRUFがダイヤモンド鉱山を実効支配して違法採掘を行い、隣国リベリアのチャールズ・テーラー大統領を介して国際市場に流通させ、莫大な利益を生みました。同じようなことがアンゴラなど他のアフリカ諸国でも起き、「ブラッド・ダイヤモンド」などと呼ばれるようになったのです。
その後、主にアフリカで金やスズに加えてタンタルなどのレアメタルがさまざまな武装勢力の資金源となり、それらを総称して「紛争鉱物(=conflict minerals)」と呼ばれるようになったのです。
2000年ころからはそれに対する規制の動きも生まれ、まず世界的に紛争ダイヤモンドを規制する枠組みとして2002年に「キンバリー・プロセス」が誕生しました。2010年には、米国金融規制法(ドット・フランク法)の中に「紛争鉱物」に関する規定が盛り込まれ、コンゴ民主共和国とその周辺国で採掘されたスズ、タンタル、タングステン、金の4物質(3TG)に規制がかけられました。
ドット・フランク法では、上場企業が規制対象地域の3TGを使用した製品を製造、委託製造しているかどうかを米国証券取引委員会に報告し、かつホームページで公開することを義務付けました。この規制の狙いは、サプライチェーンの最初から最後まで透明性を確保することで、紛争鉱物の流通を抑えることです。
ただそれでも、産地を偽装して紛争鉱物を流通させる「コルタンロンダリング」が行われているという指摘もあります。たとえば、オーストラリアでは2010年ころにはコストを理由にタンタル鉱山の稼働は止まっていましたが、オーストラリア産のタンタルは流通し続けていました。それが実はロンダリングだったのです。
そのため、紛争鉱物に対する規制の流れは拡大し、EUでは、2016年にすべての金属鉱物について世界全体の紛争地域及び高リスク地域のものを対象に情報公開を義務付け、それに伴ってRBA(責任ある企業同盟)のRMI(責任ある鉱物イニシアチブ)が国際的な報告ガイドラインを作成しました。このガイドラインに従えば「紛争鉱物ではない」ことが証明でき、消費者の選択材料とすることができるのです。
後編では、なぜタンタルが紛争鉱物になってしまったのか、そしてタンタルを通して紛争の問題を解決する方法はあるのかについて解説していきたいと思います。
※黒い指輪として人気急上昇中のタンタルは、SORAが世界で初めて結婚指輪の素材として使用したレアメタル。資源循環へ取り組んでいるSORAでは、現在再生されたULVAC社のタンタルを使用しています。
シリーズ記事
《ライター紹介》
石村研二
映画、環境、テクノロジーなどを中心に、greenz.jp、WIRED.jp、六本木経済新聞などに記事を執筆。宇宙と未来に興味が深く、暇な時はSFを読み、五次元空間に思いを馳せる。
SORAの結婚指輪とは無関係にも見える様々な実験や挑戦を見届ける予定。