【毎日身につける結婚指輪のこと、もう少し詳しく知りたい!】

ダークな黒い色味が人気のタンタル。前編では、その電気特性からタンタルコンデンサーとして電子機器内の部品になり、私たちの暮らしに欠かせない存在であることが分かりました。

一方、目を背けられない事実である、産出国の内戦や戦争の資金源となってしまう「紛争鉱物」になってしまっていたということも知りました。

 

後編では、公正なタンタル結婚指輪を手に入れる方法「都市鉱山」に迫ります。

 

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なぜタンタルは紛争鉱物の代表格になってしまったのか。

紛争鉱物の規制が進みつつあることは確かですが、タンタルは未だ紛争鉱物の代表格とされています。それはタンタルの需要が高まった2000年前後に最大の埋蔵量を誇るコンゴ民主共和国が紛争の真っ只中にいたからです。

 

理解を深めるため、この地域の歴史を少し振り返ってみます。

コンゴ民主共和国の東の隣国ルワンダでは1990年代フツ族とツチ族の激しい対立が起き、1994年にツチ族がフツ族から武力で政権を奪取します(その過程でフツ族によるツチ族の大量虐殺が起きました)。報復を恐れたフツ族の一部は難民としてコンゴに流入し、武装組織化します。ルワンダ政府はこれを抑え込むために現地のツチ系住民を武装組織化するのです。

 

コンゴ民主共和国(当時はザイール)は、長年モブツ大統領による軍事独裁政権が続いていましたが、世界情勢の変化によって90年に入り弱体化し1996年にルワンダ政府の援助を受けた武装勢力が政権を奪取します。しかし、政権奪取後に勢力は空中分解し内戦状態となるのです。

特にルワンダ・ブルンジと国境を接するコンゴ東部は、武装組織が乱立し無政府状態になります。そしてその地域は鉱物資源が豊富な地域でもあったのです。鉱物資源を求めてその地に入った外国企業は採掘する代わりに現地を実効支配する武装勢力にいわゆる“みかじめ料”を払い違法採掘を続けていたと言います。
 

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内戦状態であるがゆえにその実態は明らかではありませんが、コンゴ東部での鉱物資源の違法採掘は2001年の国連安全保障理事会ですでに指摘されており、その後も度々報告されているのです。そして違法採掘された鉱物の多くは他国に持ち出され、その国で産出したものとして国際市場に流通していったのです。

 

『ルポ資源大陸アフリカ』(白戸圭一著、東洋経済新報社、2009年)によれば、コンゴ東部のイトゥリ州では、コンゴ内戦中にルワンダとウガンダ両国軍が金鉱山を支配下に置いて民兵を組織化、内戦が終了しルワンダ・ウガンダ両国軍が撤退すると、民兵組織が分裂し金鉱山の支配を巡って激しい戦闘を繰り広げたそうです。同じようなことがコルタンについても起きていたことは想像に難くありません。

紛争鉱物が問題になった時期と、需要が高まった時期、そして産出国の紛争が激化した時期が不幸にも重なってしまったことでタンタルは紛争鉱物の代表格となってしまったのです。

 

コンゴの内戦は2003年に表面上は終結したことになったいますが、武装勢力と国連PKOの衝突が今でもたびたび報じられており、治安が回復したとはとても言えない状況です。そのような状況の中では、紛争鉱物を巡る構造に大きな変化が起きたと考えることは難しく、今も紛争鉱物は流通していると考えざるを得ないのです。

 

厳しい現実ですが、指輪の材料の背景にある事実を知っていただくことも大事だと考えています。そして、そのような紛争鉱物を材料として使わずに指輪を作ることがとても重要だと思っています。

紛争鉱物を手にしないためのリサイクル素材

紛争鉱物が流通しないようにするには、買う側が紛争鉱物は買わないとを徹底するしか道はありません。タンタルの用途のほとんどは工業用で、買い手のほとんどは電子機器メーカーですが、指輪やアクセサリーに使うタンタルも同じように流通しているわけですから無視するわけにはいきません。

 

そのために有効な方法の一つは、前回説明したRMI(責任ある鉱物イニシアチブ)による国際的な報告ガイドラインにそって紛争鉱物ではないと証明されたタンタルを購入する方法です。

中でも、リサイクルされたものを使うことが近道になります。現在は非常に低いタンタルのリサイクル率を高めれば、採掘するタンタルの量を減らすことができ、結果的に紛争鉱物を調達してしまう可能性も低くなるのです。

 

まず取り組むのは、自社内でのリサイクル。指輪は金属から切り出して作るため、どうしても端材が出てしまいます。ときには端材のほうが多くなってしまうことも。その端材を集めてもう一度材料にして使うことができれば、仕入れる材料の絶対量を減らすことができます。

RMIのガイドラインに従ってそのようなリサイクルをやっている製錬所に依頼してリサイクルを行うことが第一歩です。

そして、そもそもの材料もリサイクル原料を仕入れることが次に望ましいステップです。廃棄されるタンタルの大部分は工業用のものから出てきます。代表的な用途であるタンタルコンデンサも、製造過程でかなりの割合でオフスペック品(品質基準に達しない製品)が出て、そのほとんどはリサイクルされないまま廃棄されていると言います。

また、使い終わったり不要になった製品からもタンタルなどのレアメタルは回収できます。いわゆる「都市鉱山」です。東京オリンピックのメダルを回収した電子機器から作る試みが行われたことなどから認知度は上がっていると思いますが、タンタルも都市鉱山から回収することが可能です。

 

実際すでにタンタルコンデンサからタンタルを回収する事業を行っている企業が国内にも存在しています。

レアメタルのリサイクルを実施する企業情報サイトへ

このような先進的な取り組みを支援し、リサイクル材を積極的に使っていくことが、紛争金属の問題を解決し、心からいいと思える材料を使うために必要なことなのです。

 

タンタルの説明のはずが決意表明のようになってしまいましたが、指輪の材料一つとっても世界を舞台に様々な背景があり、お客様の選択に大きな意味があることをぜひ知ってほしくて書かせていただきました。ぜひ、コンフリクトフリーのタンタルを手にとって世界の平和に思いを馳せてください。

 

 

※黒い指輪として人気急上昇中のタンタルは、SORAが世界で初めて結婚指輪の素材として使用したレアメタル。資源循環へ取り組んでいるSORAでは、現在再生されたULVAC社のタンタルを使用しています。

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《ライター紹介》
石村研二

映画、環境、テクノロジーなどを中心に、greenz.jp、WIRED.jp、六本木経済新聞などに記事を執筆。宇宙と未来に興味が深く、暇な時はSFを読み、五次元空間に思いを馳せる。

SORAの結婚指輪とは無関係にも見える様々な実験や挑戦を見届ける予定。