チタンとジルコニウム、どちらも鮮やかな発色が特徴で最近注目されている結婚指輪の素材ですが、ふたつは色の耐久性がかなり違います。長年使用しているとチタンの方が色が変わりやすく、ジルコニウムは色が持ちます。それは、色が見える元となる酸化皮膜の強さの違いによるものです。
結婚指輪を探している時に、チタンとジルコニウムの色の持ち具合を比較する機会はなかなかありませんので、実際に指輪を磨いて色の変化を観察してみようと思います。
イメージ※歯磨き粉で力強くこすった実験④の結果
(左:チタン/右:ジルコニウム)
《実験方法》
日常によくある生活シーンの設定から、通常ありえない厳しい条件まで順に5段階を設定。
<Level.1 ジュエリークロスで普通に拭く>
<Level.2 ジュエリークロスでゴシゴシ強く拭く>
<Level.3 歯磨き粉をペタペタ塗る>
<Level.4 歯磨き粉でゴシゴシ強く拭く>
<Level.5 砂場で力を入れてザクザクこすってみる>
【発色の正体: 酸化皮膜とは?】
色が見える原理は、シャボン玉の虹色と一緒。
チタンとジルコニウムの表面に形成される0.0004mm~0.001mmほどの透明な酸化皮膜を通過した反射光が「薄膜干渉(はくまくかんしょう)」することによって鮮やかな色として目に見えるのです。
【波長と色の関係】
ピンク系 0.00065~0.0007mm
オレンジ系 0.0006~0.00065mm
イエロー系 0.00055~0.0006mm
グリーン系 0.0005~0.00055mm
ブルー系 0.00045~0.0005mm
パープル系 0.00035~0.00045mm
実験に使うチタンとジルコニウムの指輪を用意
実験は、酸化皮膜が薄めで比較実験しやすいブルー系を使用します。
左:チタン/右:ジルコニウム
<Level.1 ジュエリークロスで普通に拭く>
通常のクリーニング・メンテナンスと同じようにやさしく拭いてみると、何百回拭いたところで変化はありません。
(※研磨剤が含まれるシルバー用のジュエリークロスは厳禁)
<Level.2 ジュエリークロスでゴシゴシ強く拭く>
机の上に敷いたジュエリークロスに、ありえないぐらいの力で100往復くらいゴシゴシ指輪をこすりつけてみます。
(※保護のために、磨きたくない部分に緑色のテープを巻いています。)
左のチタン表面にうっすらと変化が現れました。
左:チタン/右:ジルコニウム
一方、右のジルコニウムに変化は見られません。
左:チタン/右:ジルコニウム
<Level.3 歯磨き粉をペタペタ塗る>
身の回りにある歯磨き粉やキッチンクレンザーには、研磨剤という固い粒が含まれているので注意が必要です。日常でありそうなパターンはちょっと付いてしまうぐらいなので、ハケでペタペタと付けてみました。何回やっても、変化はありませんでした。
<Level.4 歯磨き粉でゴシゴシ強く拭く>
付着するだけでは変わらないので、指先に力を入れてこすってみました。
チタンは50回往復するあたりからブルー系の皮膜が0.00005mmほど薄くなりパープル系になりました。明らかに皮膜が薄くなっています。
続けて100回往復すると中心にチタン自体の金属光沢が出てきました。
左:チタン/右:ジルコニウム
一方ジルコニウムは、やっと100往復位でうっすらとパープル系に変わりました。酸化被膜の強度が色の違いとなって現れました。
左:チタン/右:ジルコニウム
この実験は、かなり強くこすっているので非現実的な摩耗とも思われますが、指と指輪の間に研磨剤が挟まってしまったときは意識せずとも強い力がかかってしまうので注意が必要。すぐに水で研磨剤を洗い落としましょう。
<Level.5 砂場で力を入れてザクザクこすってみる>
砂は金属より硬く、研磨剤と全く同じなのでかなり注意が必要です。とはいえ、むりやり強い力がかからなければ大きな傷になることはありません。歯磨き粉と同じように、すぐ水洗いをして砂を洗い落とせばOK。
実験では、日常あり得ないほどの強い力で砂場の固く締まっている地層を掘り起こしました。
左:チタン/右:ジルコニウム
結果はチタンとジルコニウムどちらも細かくスジがつきました。これほどの強い力には、特に皮膜強度の差は確認できず、表面は削れてしまいました。
実は、実際の制作現場でも細かな石を圧縮エアーで吹き付け、マットに仕上げる「つや消し加工」が行われています。金属は石と強い力には敵いません。
実験結果とまとめ
今回の実験で分かったのは、相当強い力がかからない限り、急に色の変化は起こらないということでした。さらに、長年に渡り身につける結婚指輪の磨耗は必ず起こり、チタンはジルコニウムより色が長持ちしないことも分かりました。
よって色を優先するならジルコニウムをおすすめします。素材を選ぶ時に「チタンなのか?ジルコニウムなのか?」しっかり考えてみましょう。
また、色の変化を前向きにとらえれば、最初のカラーチョイスを変化のスタートと考えることもできます。上記した皮膜の厚みと色の関係にならうと徐々に下へ変化することが想像できます。(※出っ張ったところなど磨耗しやすいところから先に部分的に変化します。)いずれ訪れるカラーを楽しみにするという考えは、チタンやジルコニウムならでは。
《カラーチェンジできる!》
あと、酸化皮膜は何度でもつけることができるので「カラーチェンジ」が可能なことも、チタンとジルコニウムならではの楽しみですね。
最後に
チタンとジルコニウムの素材選びは「結婚指輪の未来と、ふたりの未来がどうなっていたいか?」と思いをはせることだとも言えます。
皮膜の変化を前提にデザインを考えることで「結婚指輪の日々の変化を観察しようと思うのか?数年後のカラーチェンジを楽しみにするのか?」など、互いの理想や、相手の知らなかった一面が見えてくるはず。
チタンとジルコニウムのように発色する特徴を持った素材でも、実験で皮膜の強さの違いが分かりました。違いとその理由を知って素材を決めると、ますます結婚指輪への愛着が強くなること間違いありません。