サンゴを守る取り組み

前編ではサンゴの生態や白化現象がおきる様々な要因があること知りました。1950年以降のサンゴの白化は、人間の活動に起因する急激な海水温の上昇が原因といわれています。

産業革命以降排出され続ける温室効果ガスにより気温が上昇し、海水はその膨大な体積で熱吸収を続け、気温上昇と時間差で海水温が急上昇しています。

 

沖縄近海でのサンゴの白化は、海水温の上昇とともにオニヒトデの大量発生という要因もあり、大量発生する原因までは分かっていませんが、人間の流す生活排水の流出が影響している可能性も示唆されています。また沖縄の土壌特有の赤土が流出することも白化の要因と考えられています。

 

今回のJOURNEY OF RINGでは、サンゴの保全活動をするふたつの団体にインタビューを実施し、現地での実際のサンゴ保全状況をお伝えできればと思います。

①恩納村役場の取り組みをご紹介

恩納村役場

恩納村「サンゴの村宣言」

恩納村役場にてサンゴ保全の取り組みをされている、企画課の宇江城 悟さん冨着 開さん、農林水産課の當山 彰一さんにお話を聞くことが出来ました。

恩納村では2018年7月に「世界一サンゴと人にやさしい村」としてサンゴの村宣言を発し、前年の2017年からサンゴの村フェスタを開催するなど村全体でサンゴの保全活動を推進しています。

 

その活動のきっかけは、養殖のモズクの収穫量が減ってしまったことから1990年代後半より、漁協が漁場の保全活動をはじめて、そこから村役場も共同で漁場の保全・サンゴ保全を現在まで継続されています。

活動内容は、上記のイベントや啓蒙活動に加え、サンゴの苗を陸上プールで養殖し、成長し大きくなった苗を海中に植え付けたり、サンゴを捕食してしまうオニヒトデの駆除となっています。

恩納村役場

これまでに植え付けたサンゴの生育は好調ということで、個体数は増加し、魚の住み込みも確認でき、豊かな漁場が復活してきているそうです。

オニヒトデの駆除も毎年行われているそうですが、2000年頃の大量発生から駆除数は年々減ってきている良い兆候がありつつ、しかしながら、大量発生のメカニズムは分からないので、周期的な大量発生があると言われているので心配は尽きないともおっしゃていました。

 

恩納村の海域には独特な特徴があるということもお話いただき、他の地域に比べ天然サンゴが多く、海流が流れ込む影響でオニヒトデの大量発生の起点となっているのではないかとも言われているそうです。

いまだに解明されていることが少ない中、皆さん手探りでサンゴの保全活動を地道に続けられている姿がとても印象的でした。

 

 

≪取材協力≫

恩納村役場オフィシャルサイト

※写真左から

  • 企画課企画係長 宇江城 悟様
  • 企画課企画係 冨着 開様
  • 農林水産課農林水産業係 係長 當山 彰一様

台風

最近の台風はいつもと違う!?

地球温暖化や気候変動に関して、ここ数年での変化について肌で感じるようなことがありますか?と伺うと、

 

「台風の発生ポイントが沖縄に近くなり、島に上陸・直撃せずに速度を上げ大型化して九州へ抜けていってしまうことが多い気がします。」

 

皆さん、異口同音に夏の台風の動きが大きく変わったという感想をお持ちでした。これまでの台風はゆっくりと進み、太平洋から沖縄近海の海水をかき混ぜながら進んでくるとで水温の低い内部の海水を海面に湧き上がらせ、海面水温を下げる効果があったので、台風がサンゴの生育しやすい海水温度に調整してきたとも言えるのです。

 

しかしながら、局所的に見ると今年7月頃の恩納村の海水温は例年より低くて26℃以下で生育する養殖の糸モズクの収穫シーズンが長かったそうです。夏に向け暖かくなり海水温が27℃以上になって収穫する本モズクの時期が後ろにずれているそうです。

 

全体的な変化と、局所的な変化の相関性が見えずらく、これまでのパターンから逸脱する現象のお話は、地球がこれまでと異なる気候変動期に移り変わったことを実感するエピソードでもありました。

サンゴ白化

地方自治体で初【Green Fins(グリーンフィンズ)】

最後に、恩納村に訪れる・訪れないを問わず、誰もが取り組めるサンゴの保全活動は何がありますか?という質問をさせていただくと「まずは知ってもらうことから始まるのでぜひ活動を知ってもらいたい」という思いが皆さんに共通の強い思いでした。

 

その具体的な活動のひとつに、日本で初めて地方自治体が主となって本格導入した「グリーンフィンズ」があります。簡単に説明をすると、サンゴ礁の海でダイビングをするときに注意するポイントを世界統一のガイドラインとして具体的かつシンプルにまとめた行動指針です。

例えば、その中には、日焼け止めの成分で「オキシベンゾン」がサンゴにとって有害なので、日焼け止めを購入するときは成分表をみましょう!という項目があったりします。私自身初めて知ることがたくさんあり勉強になりました。

 

ぜひ、皆さんも下のリンクから恩納村の取り組みをご覧になってみてください。

 

 

【参考資料】

恩納村役場オフィシャルサイト 「サンゴの村宣言」

Green Fins(グリーンフィンズ)

②「チーム美(ちゅ)らサンゴ」の取り組みをご紹介

サンゴ保全を始めたきっかけ

続いてお話を伺ったのは「チーム美らサンゴ」の畑 貴嘉さん。チーム美らサンゴは、2004年より沖縄県内外の民間企業が集まって構成され、恩納村海域でサンゴ保全活動を行っている団体。畑さんはそこに参画する企業である名護パイナップルワイナリーにて取締役工場長をされています。

 

サンゴの保全活動をすることになった経緯を伺うと、パイナップルワインの原料であるパイナップル栽培で、畑の赤土が流出してしまうことから、サンゴ保全活動を始められたとのことでした。

畑を耕すからサンゴの保全をする。というお話に一瞬私は「なぜ?」と思ったのですが、それはすなわち沖縄では、農業に限らず大地を掘り起こして恵みを得るということは、同時に眼前の青い海を褐色に染める赤土の海洋流出をさせてしまう負の面もはらんでいる厳しい現実があるという事だったのです。

 

赤土の海洋流出がサンゴに与える影響は、とても大きいことは前編でも触れましたが、農業にとっては欠かせない存在で、沖縄の土壌の55%を占める国頭(くにがみ)マージは、水はけも良く、その酸性質がパインやゴーヤなど亜熱帯で収穫できる農作物の土壌にとても適しています。さらには琉球瓦やシーサーの赤い陶器の原料にもなり、歴史や風土を語る上で欠かせない特徴のひとつでもあり、それがもたらす恩恵は計り知れないのです。青い海と赤い大地の両方とバランスをとらなくてはいけないのです。

チーム美らサンゴ

「すべてはつながっている」

チーム美らサンゴの具体的な活動は、恩納村漁協が行っているサンゴの養殖やオニヒトデの駆除等の支援、そして一般向けのサンゴ植え付け体験イベントの開催をされています。

養殖したサンゴの生育状況は良好で、10年前からサンゴの白化現象は抑えられているそうで、オニヒトデは駆除を続けることで大量発生するといわれる周期になっても大発生していないそうです。
 

畑さんとのお話の中で印象的だったのは、各所にちりばめられた「すべてはつながっているんです。」という言葉。パイナップル畑が海とつながっている事も当然なのですが、オニヒトデも広い海でつながっているからいろいろなエリアに時間差で発生するし、地球規模でサンゴの白化現象が拡大し、水質が酸性化してきている現在の影響は、人間による活動がつながっていて当然だろうとおっしゃっていました。

チーム美らサンゴ

誰にでも出来る取り組みがある

お話を聞く中で、そんなことをしてもサンゴは増えないという批判的な意見や、他にやることがあるだろうと言ったネガティブな意見もあるそうです。しかし「出来ることをやらないで、どうするの?」と、やらないよりやるを実践されている畑さんの行動力に感銘を受けました。

恩納村海域でサンゴの白化が抑制できた事実が示すように、地球温暖化による脅威を悲観的に嘆くより、明るく前向きに今やれることをやるという、行動がまずは大事なんだと感じました。

 

また、近年の肌で感じる気候変動や変化について伺うと、現地の人でも夏がもの凄く暑くなったという話をしているそうです。雨の降り方が南国特有の一時的なスコールになり、その雨の一回の量や雨粒が大きくなっていると言います。

現地の方も戸惑うような気候変動期への変化がすでに始まっているのでしょうか。

最後に、現地にいなくても出来る取り組みは何かと尋ねると、基本的なゴミのポイ捨てや無駄なことは抑えるといった本当に誰でも取り組めることの重要性をお話くださいました。そして付け加えて、懸念していることは、海水温の上昇や、水質の酸性化などの実態を知らない人が多いのではないかということでした。

 

また、畑さんは未来に希望のあるお話もしてくださいました。1950年以降危機的な状況にさらされたサンゴの中から、高い水温に耐性のあるサンゴは増加傾向にあるという調査結果もあるとのことでした。人間によるサンゴの養殖や産卵はとても難しいものだったのですが、近年は成功例も増えてきているので、温暖化の影響をうけながらも、5億年前から続く進化の系譜は、サンゴが変化し続けるということを止めずに適応している真っ最中なのかもしれません。

 

≪取材協力・写真提供≫

「チーム美らサンゴ」オフィシャルサイト

株式会社名護パイナップルワイナリー
取締役工場長 畑 貴嘉様

 

これからの未来のためにわれわれができること

地球の温暖化や気候変動を、大きなスケールで見ればそもそも行われている寒暖サイクルという向きもありますが、やはり18世紀の産業革命以降、急速に人間の活動が豊かになり石炭、石油を燃焼させ温室効果ガスによって環境に与えた代償のひとつに海水温の上昇があると言えます。その影響は、サンゴの白化現象に限らず、気を付けて観察すればいたるところに忍び寄ってきているはずです。

 

恩納村役場の皆さんも、畑さんもおっしゃっていたように、まずは知ることでわたしたちの行動が変わっていくので、事実を多くの方に知ってもらうことが重要です。JOURNEY OF RINGで発見した自然の変化を、引き続き伝えていきたいと切に思いました。

《ライター紹介》

SORA営業企画部マーケティングチーム所属

日本自然保護協会(NACS-J)自然観察指導員

坂本良太

 

宇宙撮影でもおなじみマーケの坂本。普段は企画業務をこなしつつイベント運営、機材の試作までなんでもやる課のアラフォーパパ。最近気になることは宇宙創生とベルトサンダー。