小野小町の詠んだ儚き美

花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
hana no iro wa utsurinikeri na itazura ni waga mi yo ni furu nagame seshi ma ni
the beauty of cherry blossoms
has passed its peak
in vain
while I looked idly
at the endless rain
Translation of Hyakunin Isshu by
Emiko Miyashita and Michael Dylan Welch
<現代語訳>
桜の花の色は、春の長雨に打たれて、むなしく色あせてしまった。まるで、恋や世の中のことで思い悩んでいるうちに、知らぬ間に私の美しさが衰えてしまったように。
小野小町(おののこまち)生没年不詳
平安時代の歌人であり、その美しさと優れた和歌によって広く知られています。彼女の美貌は数々の伝説に残され、「小町」という言葉は今でも「美しい女性」を指す言葉として使われています。小野小町の和歌は、恋の喜びや儚さ、人生の無常を繊細に表現したものが多く、百人一首に収められたこの和歌は、特に有名です。
この和歌は、桜の花が長雨に打たれて散っていく様子に、自身の若さや美しさの衰えを重ね、移ろいゆく時間の無常と儚さを詠んだものです。
「仄桜(ほのさくら)」は、この小野小町の和歌を、四季の「春」、花鳥風月の「花」として選び、デザインしました。長雨に濡れ、散りゆく桜の儚さに焦点を当てています。そこには、移ろいゆく時の流れと、だからこそ輝く一瞬の美しさが込められています。

「仄桜」のデザインについて
指輪の外側には、水面に散った桜の花を描き、静かに広がる波紋を刻むことで、和歌の情景を映し出しました。満開の華やかな桜ではなく、雨に打たれて散り水溜りに浮かぶ花をモチーフにすることで、和歌が持つ切なさと移ろいゆく時の美を際立たせています。
内側には、降り続く雨を象徴する金箔を用いた繊細な彫刻を施し「長雨」の情景を描いています。外側の水面の表現と、内側の雨の彫刻が響き合い、指輪全体で和歌の世界観を描いています。
さらに桜の配置には、意図的に余白を持たせました。桜を詰め込みすぎず、あえて間隔を空けることで、和歌に詠まれた儚さがより際立ち、静寂の中に漂う情感が感じられる構成となっています。また、桜といえば一般的に見上げて鑑賞するイメージを持ちますが、和歌に込められた虚しさをより強調するため、桜を眺める小野小町の下向きの視線を意識してデザインしています。

制作のこだわりと見どころ
「仄桜」の制作には、高度な象嵌技法が用いられています。特に桜の花に用いられている高肉象嵌は、パーツをはめ込んだ後に、さらに彫刻を施すため、高度な彫刻のスキルが求められます。また、通常の貴金属なら象嵌後に火を当てて、溶接し加飾することが可能ですが、タンタルは火を当てると強固な酸化皮膜が発生してしまい、美しさが損なわれてしまいます。そのため、象嵌後に火を当てることが出来ません。そこで、先に火を当てて加飾したパーツを象嵌、そして加飾部分が失われないよう丁寧に彫刻を施しています。
さらに、桜の色彩表現にもこだわりが込められています。華やかさではなく、儚さを表現するために、プラチナの白を基調とし、ゴールドやピンクゴールドを控えめに加えることで、落ち着いた色調に仕上げています。これにより、雨に濡れ散る桜の情景が表現され、「仄桜」ならではの美しさが生まれました。

「仄桜」の詳細
主要素材:Ta(タンタル)
装飾:Pt(プラチナ)、PG(ピンクゴールド)、YG(イエローゴールド)、純金箔
技法:高肉象嵌、ロウ流し象嵌、金箔貼り、レーザー彫刻
サイズ:22号 幅10mm
価格:¥970,200(税込)
※本作品は1点限りとなります。サイズの調整やアレンジ加工などのご注文は、出来かねますのでご了承ください。