「戦うため」ではなく 人生に寄り添う指輪を
マリッジリングやエンゲージリングに限らず、指輪をはじめとしたアクセサリーに、様々な願いや想いをこめて身につけている人は少なくないと思います。
ドラァグクイーンのときには大ぶりで華やかなアクセサリーをつけていることが多いドリアンさんですが、そうしたアクセサリーがどのよう存在か尋ねてみると、「武器や防具のようなもの」という答えが返ってきました。
「日本のなかではまだ、同性愛者の男性が化粧をしてドレスを着て人前に出ることには、世間からの有形無形の圧力があるように思います。アクセサリーをはじめとした華美な装いは、そうした圧力に対する防具であり、そんな世間に対峙するための武器でもありますね」
また、ドラァグクイーン自体が、ある種の“フェイク”を楽しんでいるようなところもあり、アクセサリーも基本的にはフェイクのもので、「とにかく大きくて破壊力があるもの」が選ぶ基準になっているといいます。
一方、“すっぴん”のマサキさんにとってのアクセサリーについて聞いてみると、大学生の頃は、よりアイコニックなゲイになりたいと、ピアスを開けたり指輪をつけたりしていたそうですが、会社で働きはじめるようになってからは、身につける習慣がなくなっているとのこと。
そんなドリアンさんにとって、今回のLINK OF LIFEプロジェクトで作る指輪は、これまでの人生で身につけてきたアクセサリーとは違う意味をもつことになるだろうと、企画について話を聞いた段階で感じたといいます。
「自分の人生にリンクする指輪」という企画のコンセプトを受けて、最初にドリアンさんから挙げられた希望は2つ。ドリアンさんのときだけでなく、マサキさんのときにもつけられるような指輪であること。そして、デザインはできるだけシンプルなものにすること。
シンプルなデザインを希望する理由には、「ドラァグクイーンが作る指輪なら、きっと派手なものだろう」という周囲の思い込みや決めつけを裏切りたいという想いもあるとドリアンさんは話します。
「見る人を混乱させたい」「ゆらぎやひずみのような存在でありたい」という思いは、ドリアンさんがドラァグクイーンをやっているモチベーションの一つでもあるそうですが、今回の指輪づくりでも、その軸はブレません。
「ある映画で、ドラァグクイーンの唯一のルールは、ルールなんてないことだと言っていましたが、その通りだと思います。『ドラァグクイーンらしく』とか『ドラァグクイーンなんだから、こういうことやるでしょ?』っていうのはナンセンス。そういうものから解き放たれていて、様々な顔やオーラをまとえるのが、ドラァグクイーンの魅力の1つだと思います。」
周囲からの押し付けに囚われることなく、むしろそれを揺るがすような表現や発信をされてきたドリアンさん。その人生を体現する指輪は、果たしてどのようなものになるのでしょうか?
スチール撮影:伊藤圭
Interview & Writing
アーヤ 藍 ai ayah
PROFILE
2014年から約3年間、ユナイテッドピープル(株)で、様々な社会問題をテーマにした映画の配給・宣伝を行い、SORAとも、アメリカの同性婚裁判を追ったドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ』を配給していたときに出会った。2018年春からはフリーになり、映画イベントの企画運営や、環境問題に関する学校向けの教材づくり、医療系記事のライティングなどを行っている。