『銀嶺』山の情景に重ねるふたりの在り方

『銀嶺(ぎんれい)』

遠く大陸から吹き寄せる風が日本海を渡り、岩内の山を銀色に染める。

風の視点から見た景色は地球規模の視座の跳躍をもたらし、天気や季節が表す変化は成長するふたりの関係、山魂が表すのは揺るぎないふたりの決意。

 


これは、あるおふたりの結婚指輪に込めたストーリー。
強い想いを込めて完成した「銀嶺」という名の結婚指輪をご紹介します。

ひとりで決めた!?
驚きの指輪づくりエピソード

おふたりの指輪づくりのエピソードは少し特殊かもしれません。指輪のご依頼をいただいたのは2019年9月、SORA札幌店に大悟様がお一人でご来店されました。筑詩様が都合がつかなくなってしまったのだそう。


「まずは話だけでも、と軽い気持ちで行ったんですよね。でもお店の中を覗くとカップルばかりだったので、ちょっと気まずいなって思いながら入りました。」と大悟様。

実は大悟さまがご来店された時はすでに他のお客様のご予約で埋まっており、すぐにご案内できるスタッフがいませんでした。そこに偶然居合わせたSORA代表の丸山がお話を伺うことに。


大悟様は婚約指輪の相談を予定していたのだそうですが、ひょんなことから結婚指輪のお話になり代表が目の前で描いた結婚指輪のデザイン画に「僕の中でハマってしまった。直感的にこれしかない、これをつくって欲しいと思った。」と振り返ります。

その場で筑詩さまにデザイン画をメールで送り、電話で「結婚指輪を決めるよ」とお話され、あれよあれよと話が進んでいきました。

 

当時のことを筑詩様は「とにかく驚きました。見にいくだけ、しかも婚約指輪と聞いていたので『結婚指輪を決める』って聞いて、え!?って。でも大悟らしいなとも思いました。」と笑いながらお話してくださいました。

ふたりの在り方を重ねた「岩内岳」の情景

岩内町が出会いの地であるおふたり。指輪のモチーフとして描かれたのは「岩内岳」です。

 

北海道のニセコ山系の西側に位置する「岩内岳」は、ニセコ連山の中で一番日本海側にある山です。標高1.086m、海風の吹く山頂は少し荒々しい印象の岩稜帯である一方、春にはたくさんの高山植物に彩られます。

 

また、スキー場「IWANAI RESORT」では北斜面のゲレンデから日本海や積丹半島を一望しながら世界最高のパウダースノーを楽しめるなど、四季折々で様々な表情を見せる魅力的な山でもあります。

日本海に吹く風の視座からその情景を捉え、指輪の正面には岩内岳の山頂を、背面に向かって山裾が広がりその麓には岩内町と日本海の様子を彫りの技法で表現しています。

 

そして山頂から昇る太陽を想わせる朝焼けの色。1日の始まりとふたりの新たな人生の始まりを重ねました。

クリエイターが語る、指輪の制作秘話

おふたりの造形的な美しさと情緒的な雰囲気を持つ結婚指輪の制作を担当したのは、クリエイター森川。

「デザインのニュアンスをお任せいただいたことで、趣向を凝らした唯一無二の指輪に仕上げることができました。これまでのクリエイター人生の中でも自慢の作品です。」と語ります。

 

そして、制作時にこだわった3つのポイントを、次のようにあげました。

 

「まずひとつめは、山肌に刻まれた4本の滑走コース。これは大悟様が長年スノーボードを人生の軸にしていることから、絶対に外せないポイントと捉え忠実に再現しました。コースだけが目立たないように彫りの深さや磨きの加減を調整しています。

 

ふたつめは山の麓に伸びる直線のライン、岩内町を表す部分です。本来なら旋盤で真っ直ぐなラインを入れますが、今回は糸鋸で削り、あえて削り跡を残しています。そうすることで、町灯りが静かにきらめくような表情をつくりました。

 

最後に指輪下部の水面を表す部分。ここは鏨(たがね)という道具で打ち込んで窪みをつくっているのですが、その窪みを町並みを表す直線ラインに向かうにつれて小さく細かくしています。そうすることで、奥行きある情景にしています。打ち込むことでラインが少し歪みますが、ここもあえてこのままにすることで、町と水面のゆらめきを表現し全体の情景に馴染ませています。」

「絶対に乗り越える」指輪に込めた決意

指輪づくりの始まりと同様に、ふたりの出会いも大悟様の一目惚れから始まったそうです。これまでの人生で自身の直感を信じたときは間違いがなかったと語る大悟様ですが、筑詩様とのご結婚までは険しい道のりだったと語ります。実は、筑詩様のご両親にご挨拶をする前に結婚指輪をつくったおふたり。その理由は「絶対に乗り越えよう」という決意でした。

 

岩内町で生まれ育った筑詩さまと、千葉県出身でスノーボードで世界を渡り歩き、ご縁があって岩内町に移住した大悟様。歳の差もあるおふたりであったために、筑詩様のご両親にはすんなりOKはもらえないだろうと感じていたのだそう。

だからこそ、どんなことがあっても絶対に一緒になろうという覚悟の形でもあったという結婚指輪は、眺めるたびに色々な想いが蘇り、今も仕事などで踏ん張らなければいけないときは心強い存在だと教えてくれました。

マッターホルンを指輪に刻む意味

おふたりの指輪にはもう一つ大切な信念が込められています。それは指輪の内側に刻んだ「マッターホルン」の刻印です。マッターホルンはアルプス山脈に属する標高4,478mの山。そこには大悟様のご友人の存在がありました。

 

「彼はマッターホルンの登頂中に亡くなったんです。とても仲が良くて、年下でしたがとにかく尊敬する存在でした。普段は会社勤めをしながらも年に数回海外の山に挑戦しに行く。仕事もプライベートも野心家で高いレベルでバランスを取っている、それでいて人を巻き込む力もあって敵を味方にするような人柄でした。彼が亡くなったことで彼を追い越すことは絶対にできないけれど、彼の背中に一歩でも半歩でも近づけるような生き方をしようと思ったんです。」

 

その想いに筑詩様も共鳴し、ご友人の生き様はふたりの人生の指針になりました。そんなおふたりは人生のテーマは「Stay stoked(ステイストークト)」。興奮やワクワクする気持ちを表す言葉に「たった一度の人生、ふたりで色々なことに興味を持ち、夢中になり、楽しみを共有しながら充実した人生をつくっていこう」という想いを込め、一日一日を大切に後悔がないよう全力で過ごしています。

ふたりにとって結婚指輪とは?

大悟様「僕たちにとって結婚指輪は『ふたりを繋ぐ』存在です。ふたりの関係であったり、これまでの歴史とこれからの未来もこの指輪に刻んでいくんだと思います。左手の薬指に同じものを着けているって、すごく意味が深いものに感じています。」

 

筑詩様「色々あったからこそ結婚はゴールではなくて『ふたりの新たなスタート』だと強く感じています。その想いを改めて考えさせてくれる存在です。」

自由を追求し、あたらしい世界を目指すふたり

おふたりにお互いの存在についても伺ってみると、大悟様にとって筑詩様は「責任ある自由を追求するパートナー」と答えてくださいました。

「結婚して家庭を持ち、自分は大黒柱という責任を持っているけれど、そこに捉われて視野が狭くならないようにしたい。ふたりで歩む人生の中で、自分たちにしか出せない色をつくるつもりで自由を追求していきたい。」

 

筑詩様は大悟様のことを「新しい世界やワクワクする世界を見せてくてる存在」と答えます。
「小さな町で生まれ育ち、自分の人生につまらなさを感じていたけど何をしていかも分からない、そんなときに彼に出会いました。私が見てきた世界とはまるで違い、彼といると自分の世界や視野もガラリと変わりました。今は一緒に新たな世界を見たいという気持ちが強いです。」

性格や考え方に違うところがあるからこそ楽しみが増えたり認め合うことができて、人生をより豊かにしていくことができるのですね。何事にも全力で笑顔が絶えないおふたりがこれからどんな人生を創りあげいていくのか、今後もお話を聞かせてください。

 

担当デザイナー:代表丸山月舘
担当クリエイター:森川
オーダー店舗:SORA札幌店